「月下の棋士」から 第19巻「A(えい)」 |
伝説的棋士 御神三吉の孫 氷室将介は名人 滝川幸次との対決に向けて順調に順位戦を勝ち進んでいった。そうして迎えたA級順位戦初戦、相手はロシアから帰化した 三国イワンであった。イワンはチェスの元世界チャンピオンであったが、突然将棋に転向したという経歴の持ち主である。転向は金のためといわれていた(※1)が、イワンの言によればそうではなく「ロシア人の誇りのため」だという。そして、イワンは実際に将棋を「チェス式」に、すなわち持駒を使わずに指していた(※2)。 御神は試合会場に行く途中で、「”くいん”は八方に進み・・・」とルールの確認をしているところを見ると初めてのチェスのようです。 左が序盤の局面です。頭に隠れて盤の一部が見えませんが想像しました。先手の白が御神、黒がユーリですが、どうやって手番を決めたのかはわかりません。 ぱっと見て「これは!」と思いました。キングズインディアン・ディフェンス(※4)のサミッシュ・バリエーション(※5)で、白が9手目(※6)を指した局面です。初めてなのに定跡通りに指し、しかも攻撃的な形を選択するとはさすが御神三吉、ただ者ではありません。 ユーリのチェス歴は書いていないのでわかりませんが、こちらもちゃんと定跡を知っていることから、少なくともそこそこ強いことがわかります。 さて、そのあとのページで中盤戦の盤面が出てくるのですが、ほとんど真横からの絵で配置がつかめないのでとばして、左が問題の合駒をした局面、白が Qf1+ としたところです。派手な戦いがあったようでポーンの数がかなり少なくなっています。そして、ルーク 対 ナイト+2ポーン(※7)となかなかいい勝負になっています。おそらく、互いに面白いチェスだったと思ったのではないでしょうか。ここで、黒がにすでに取っている白のビショップを、黒キングの手前 f6のマスに「合駒」して反則負けとなりました。 普通に指すなら、...Kxg6 とルークを取る手ですが、以下 Qg1+ Kf5 , Qg5+ Ke4 , Qg6+ Kxd5 , Nf4+ Kc5 , Qxc2+ と連続チェックで黒のクィーンを素抜く筋があり白の勝ちとなります。...Ke7 と逃げても Qf6+ から、チェックメイトされることになります。おそらく、ユーリはその筋をすべて読み切って投了の意思表示として合駒という行為に出たのでしょう。もっとも、合駒が有効だったとしてもただ取られて一手詰ですが。合駒するならもう一つ手前の f5 のマスにしてほしかったところです。 ところで、左図での白の Qf1+ という手は最善手とはいえません。Rg7+ Kf6 , Qf1+ Ke5 , Qf4+ Kxd5 , Rd7+ Kxe6 , Rd6+ Ke7 , Qf6# という即詰があるからです。ユーリが合駒をしたのは、御神がこの明快な勝ちを選ばずに遠い勝ちの手を指したことに抗議する意味があるのかもしれません。御神が即詰を読めなかったということは、チェスの実力はそれほどではなかったという証拠でしょう。将棋にすれば初段くらいでしょうか。そして、その御神に負けたユーリの実力はそれ以下ということになります。
(※1)もちろんそんなはずはない。チェスのスポンサーは将棋のスポンサーよりずっと多く、世界チャンピオンともなれば、タイガー・ウッズほどではないにしても、かなりの収入があったはずだ。
まだすべての謎が解けたわけではない… |
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